初デート

それからも毎日数回のメールのやりとりが続いた。

きっかけは忘れてしまったが、練習前に一緒にランチに行こうという話しになった。

思いきって誘ったら「ありがとうございます。お供します。」という返事。

ちょっとビックリだった。

 

JR東和駅前の広場で待ち合わせた。

早めに出かけたのだが、すでに幾子は来ていた。

スリムなジーンズに包まれた長い脚を組んで、コンバースバスケットシューズを履いて、ちょっと不安げな様子でベンチに座っていた。

 

駅前に一軒しかないシティホテルの最上階レストランに入った。

仕事柄、いわゆるパワーランチと呼ばれる昼食接待はよく行っていたので、こういう場所には行き慣れてはいたが、若い女性と一緒というのはほとんど経験がなかった。

 

幾子はオーダーした料理にほとんど口を付けなかった。

「私小食なんです。」

ちょっと心配になったのだが、あとで聞いたのだが極度の緊張でまったく食欲がなかったそうだ。

ちょっと派手な雰囲気なので、きっと恋多き女だと思っていたのだが、実はまったく男性と付き合ったことがなかったそうだ。

 

そのまま、車で海を見に行った。

海岸をブラブラと散歩して、さびれた土産品店を覗いて、練習場所の宮町公民館に向かった。

さすがに公民館の目の前で車から降りるのは憚られるので、ひとつ手前の交差点にあるマツキヨの前で解散した。

 

その後「マツキヨ前」が、幾子との集合場所になるのだが。

 

ちなみにこのときは、手もつながなかった。

いわゆるボディコンタクトは、ずっとずっと後になるまで、本当にプラトニックな関係が続いた。