遠出
幾子と会うのは、やはり宮町ウインドアンサンブルの練習のあと、ということがいちばん多かった。
夜のデートもそれはそれで楽しいが、やはり昼間に会いたいと、どちらともなく言い出して、県外へのドライブをすることが多くなった。
起きてから準備が整うまで最低2時間はかかると幾子が言うので、いつも東和駅前のサンマルクカフェで、コーヒーを飲みながら待機していた。
「準備できたよ」というメールを待ちながら、のんびりしている時間はけっこう好きだった。
幾子から連絡があると店を出て、幾子の家の近くにある団地の駐車場にこっそり車を停めて待っている。
合流したら、すぐ近所にあるインターチェンジから高速道路に乗って、ちょっと遠出のドライブ。
このパターンがのちのちまで続くことになった。
いろいろなところへ出かけた。
幾子がイラスト制作に使う画材を扱っている、県庁所在地にある専門店。
立川店長には申し訳ないが、東和楽器の品揃えはいまひとつなので、隣県にある大型楽器店。
幾子はマンガを描くことにも興味があるので、ちょっとおたくっぽい同人誌などを扱う書店(これも隣県にあった)
オレの趣味である乗り鉄に付き合わせたりもしたし、大型ショッピングモールにも出かけた。
よく7年間誰にも会わなかったものだ。
いや、会っていたかもしれないが気づかなかっただけかもしれない。
ドライブの途中、休憩に立ち寄った東和市からはかなり離れた場所にあるサビースエリアで、幾子の肩を抱いた。
「ここなら誰にも会わないかなぁ・・・と思って」と言い訳がましく言ったら
「そうだよね。東和市にいたらこんなことできないもんね。」と幾子が返事をしたのには驚いてしまった。
厚手のコートを着ていても、手のひらに収まってしまうくらい細い肩だった。