出会い
ゴールデンウィークのど真ん中のある日、家内に頼まれて、小学校三年生の長男を連れて、近所のコンビニに買い物に出かけた。
携帯が鳴った。
「誰だろう・・・」
森さんからだった。
森さんは大学の先輩、といっても卒業年次がかなり違うから、在学中は知らなかった。
地元の東和保育短大の教授をしている。
県のナントカ諮問委員などもつとめていてちょっと近寄りがたい雰囲気の人。
数回挨拶したくらいの間柄だった。
「東和楽器の立川くんから聞いたよ。市民吹奏楽団を探しているんだって?」
「は、はぁ・・・」
「ウチのバンド・・・宮町ウインドアンサンブルに来ない? そんなに上手ってわけでもないけれど、アットホームな雰囲気がけっこう評判なんだ。この間も『ミュージックファンタジー』誌の取材を受けたんだ。」
「は、はぁ・・・」
東和市は県で人口が三番目の地方都市。
それなりに歴史もあり、以前は賑わっていたのだが、町のシンボルだった製紙工場が閉鎖されて以来、なんとなく町に活気がない。
オレ、三原次郎、当時47歳。
地元の事務機器セールス会社に勤めている。
東和市民病院で医療事務の仕事をしている家内と、3人の子どもと暮らしている。
中学校から始めたサックスが唯一の趣味。
先日まで、Towa Swingin Orchestraという社会人ビッグバンドに所属していたが、人間関係がこじれて辞めてしまった。
もうビッグバンドはこりごり、中学から大学まで情熱を傾けた吹奏楽をまたやりたいと思っている。
それを行きつけの東和楽器で、店長の立川さんに話したら、森さんにまで話しが行ったらしい。
「じゃあ、明日の17時に、宮町公民館に来てね。あ、楽器も持ってきてよ。」
「は、はぁ・・・」
謹厳実直なイメージの森さんだったが、けっこう強引だ。
なんかぱっとしない毎日だし、明日顔を出してみるか・・・。